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那覇地方裁判所沖縄支部 平成7年(わ)45号 判決

主文

被告人を懲役一年に処する。

未決勾留日数中七〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大蔵大臣の免許を受けないで、

一  別紙一覧表一記載のとおり、Aほか一〇名に対し、平成五年三月から平成六年三月までの期間を決め、その中途又は満了の時において、一定の金額の給付を行うことを約した上、右期間中の毎月二〇日ころ、沖縄県石川市《番地省略》所在のレストラン「甲野」及び同県中頭郡《番地省略》所在のレストラン「乙山」において、右Aほか一〇名から前後九六回にわたり現金合計三一八〇万円を掛金として受け入れ、

二  別紙一覧表二記載のとおり、Bほか九名に対し、平成三年一二月から平成四年一一月までの期間を決め、その中途又は満了の時において、一定の金額の給付を行うことを約した上、右期間中の毎月六日ころ、同県沖縄市《番地省略》所在のレストラン「丙川飯店」において、右Bほか九名から前後一二〇回にわたり現金合計一億三六〇〇万円を掛金として受け入れ、

三  別紙一覧表三記載のとおり、Bほか八名に対し、平成四年一二月から平成五年九月までの期間を決め、その中途又は満了の時において、一定の金額の給付を行うことを約した上、右期間中の毎月六日ころ、前記「丙川飯店」において、右Bほか八名から前後八四回にわたり現金合計九一〇〇万円を掛金として受け入れ、

四  別紙一覧表四記載のとおり、Bほか六名に対し、平成五年四月から平成六年一月までの期間を決め、その中途又は満了の時において、一定の金額の給付を行うことを約した上、右期間中の毎月三〇日ころ、沖縄県石川市《番地省略》丁原ビル六階所在のサロン「戊田」において、右Bほか六名から前後五九回にわたり現金合計六六〇万円を掛金として受け入れ、

もって銀行業を営んだものである。

(証拠の標目)《省略》

(争点に対する判断)

被告人及び弁護人は、判示各所為の外形的事実は認めるものの、銀行業ないし相互銀行業を営んだとの点は否認する。

そして、弁護人は、被告人の無罪を主張するところ、その論旨は必ずしも明確ではないが、要するに、①被告人の判示各所為は沖縄で旧来行われてきた模合であって、不可罰である、②仮に、右が銀行法ないし相互銀行法(以下「銀行法等」という。)に違反するとしても、模合は沖縄の古くからの慣習であり、これに従った被告人には模合を行うことが銀行法等に違反するとの認識はなかったというのである。

そこで、右の諸点につき順次検討する。

一  被告人の判示各所為が、沖縄で旧来行われてきた模合であり、不可罰であるとの主張について

1  現行銀行法及び平成四年法律第八七号四条による廃止前の相互銀行法(以下「相互銀行法」という。)は、一定の期間を定め、その中途又は満了の時において一定の金額の給付をすることを約して行う当該期間内における掛金の受入業務を銀行業ないし相互銀行業と定め(銀行法二条四項、三条、相互銀行法二条一項一号)、大蔵大臣の免許を受けた者でなければ、このような掛金の受入業務をすることができない旨規定している(銀行法四条一項、相互銀行法四条、三条一項)が、右にいう掛金の受入業務は、掛金を出す者とこれを受け入れる者との対立する当事者関係の存在を前提としていると解される。

それゆえ、これをいわゆる講(無尽)に当てはめた場合、講元が、一定の期間を定め、その中途又は満了の時において一定の金額の給付をすることを約して当該期間内における掛金の受入れを行い、他方、講員は、右約旨に基づいて掛金の払込をなして一定金額の給付を受けるというように、講元と講員との間には、個別契約に基づく権利義務関係(いわば縦の法律関係)は存在するが、講員相互間の権利義務関係(いわば横の法律関係)はなく、各講員が払い込んだ掛金は講元の単独所有となり、同人はもっぱら、自己の責任において給付金を支払って講を運営する等の事情があれば、これは、後述する組合型の講とは質を異にする、個別契約による非組合型の講であって、このような個別契約による非組合型の講を反復継続して行った場合には、銀行法等の規制対象となるというべきである(最高裁判所昭和三五年七月二六日第三小法廷決定・刑集一四巻一〇号一二九五頁、同裁判所昭和四四年一〇月二日第一小法廷判決・刑集二三巻一〇号一一七五頁参照)。

2  ところで、弁護人主張のように、沖縄において、従前から模合と称される金融が広く行われてきたことは公知の事実であるが、弁護人請求の証拠や本件で被告人の開催した模合参加者の供述調書等によれば、典型的な模合は、相互扶助や親睦を目的とするものと認められるところ、これについては、いわゆる無尽講や頼母子講のうち、古くから庶民の金融手段として、講員の相互扶助、困窮者の救済等の共同の目的のもとに結成され、その加入者も親族、親友、職場仲間等の人的あるいは地域的な関係の存在する閉鎖的なものである等の特徴を有するものと同様、法律的には加入者相互間に民法六六七条所定の組合契約又はこれに類似する契約が締結され、仮に講元が置かれる場合でも法律関係は講元と講員間の個別契約ではなく講元を含めた関係者全員の横の組合契約ないしこれに類似の契約が存するにすぎない組合型の講にあたるのであって、このような組合型の講は、銀行法等の規制を受けるものではない。

3  これに対し、被告人の判示各所為は、模合と称してはいるものの、その実態は、次のとおり、非組合型の講であるといわざるを得ない。

すなわち、被告人の行った模合(以下「本件模合」という。)の方法は、初回は、座元(講元)が入札なしに無条件で各講員が拠出した模合金を満額受け取るが、模合の座での講員らの飲食費等を座料として自ら負担し、第二回目以降は、座元が、各講員から掛金を徴収した後、座元と前回までに落札した講員とを除いたその余の講員らに入札をさせ、落札者に対しては落札金(当該回の掛金総額から所定の割戻金及び当該回の座料を控除した額)を、当該回までに落札をしていない講員らに対しては割戻金をそれぞれ支払い、最終回はそれまでに落札をしていない講員が無条件で当該回の掛金総額を取得する割戻方式(判示一ないし三)及び落札者が次回以降は落札した金額を掛金に上乗せして払い込むという積立方式(判示四)であり、これ自体は組合型の講と認められる模合の場合と共通である。

しかし、本件模合では、①いずれの場合も座元となった被告人自身が、主として講員を勧誘・募集し、模合の座の日時・場所の決定、模合の掛金の徴収や落札者に対する模合金の支払は被告人が一人で行っていたこと、②各講員は、他の講員の氏名も知らないまま本件模合に加入しており、そのため掛金だけを届けさせるなどして実際に模合の座に出席しない講員も多く(講員の中には、顔見知りや親しい者がいるが、それは被告人が偶然そのような者を勧誘したからにすぎない。)、沖縄県中部一帯に居住する者が多いという以外には各講員相互間に格別の人的あるいは地域的関係はなかったこと、③各講員は座元である被告人の個人的資力を信頼して本件模合に加入し、講員からの掛金の徴収が不能となって模合が途中で崩れた場合には座元である被告人が無条件でその講員の事後の掛金を負担することが暗黙の了解となっていたこと(現に模合が途中で崩れたため、被告人が落札未了の講員に対し補償を約したことがあった。)、④落札した講員に対する落札金の支払に際し、被告人は、模合当日に講員から徴収した掛金から支払うのでなく、第三者振出にかかる小切手で支払ったり、講員からの掛金の受入れに際し、これを講員の被告人に対する未収金債務と相殺する等の方法を用いている等の特徴があり、さらに、本件模合は、被告人が自己の生活資金を調達する目的で起こしたものであって、親睦ないし相互扶助的なものではないことも併せ考えれば、本件模合は前記組合型の講とは明らかに異なるものと認められる。

4  要するに、各講員相互間に格別の人的あるいは地域的な関係はなく、各講員は座元である被告人の個人的資力を信頼して、他の講員の氏名も知らないまま、本件模合に加入し、講員の掛金不払の際には被告人が自らその支払の責を負うことが約されていたこと等の事情に照らせば、本件模合は、人的あるいは地域的な関係が存在する者の間で、相互扶助等の共同の目的のもとに結成された組合型の講ではなく、座元と各講員との個別契約があるのみで、講員相互間に法律関係のない個別契約による非組合型の講であったというべきであり、被告人がこれを判示のとおり多数回繰り返し行っていたことは明らかであるから、被告人は反復継続の意思をもって個別契約による非組合型の講を行ったもの、すなわち、銀行法等に違反して銀行業及び相互銀行業を営んだものに外ならない。

以上のとおりであるから、本件模合は沖縄における旧来の模合であるとして、不可罰であるとする弁護人の主張は、その前提を欠き理由がない。

二  本件模合が銀行法等に違反することにつき被告人の認識がない等の主張について

弁護人は、被告人が、本件模合が銀行法等に違反することを知らなかった旨主張する。

しかし、そもそも法律の不知は故意を阻却するものではない上、前記のとおり、本件模合は銀行法等に違反しない模合とはその実態を異にしており、被告人にはその点の認識が十分あったと認められるから、この点の主張も理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示一、三及び四の各所為は、いずれも銀行法六一条、四条一項、三条(上記のうち、判示一及び三の各所為は、相互銀行法を廃止し、銀行法を改正した平成四年法律第八七号の施行期日である平成五年四月一日の前後にわたっているところ、右は金融業務という職業的集合犯であるから、その全体を包括一罪として、新法である右改正後の銀行法を適用すべきである。)に、判示二の所為は、平成四年法律第八七号附則三二条により相互銀行法二一条、四条、三条一項、二条一項一号にそれぞれ該当するが、これらの罪はいずれも、反復継続の意思をもって行うことを前提とする集合犯であるところ、判示一、三及び四の各所為については掛金の受入期間が一部重複しており、判示二及び三の各所為については、掛金の受入期間が実質的に引き続いているほか、模合の座の開催場所や掛金額が同一で、講員も概ね共通することなどからみて、判示各所為は被告人の単一の犯意に基づいて反復継続されたものと認められるから、結局、これらを分割することなく、全体を包括一罪として、銀行法六一条、四条一項、三条を適用し、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法二一条を適用して未決勾留日数中七〇日を右刑に算入することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が生活費を稼ぐため、大蔵大臣の免許を受けずに、判示のとおり模合を複数発起し、その間、多数の講員から多数回にわたり合計二億六五四〇万円もの巨額の掛金を受け入れ、もって銀行業を営んだという事案であるところ、被告人が座元として総取りにした額が極めて多いのに対し、本件模合の講員の中には、相当額の損失を受けた者もいることなどからすると、被告人の責任は重大である。

従って、被告人が更生の意欲を示していることなど、被告人に有利に斟酌すべき事情を考慮しても、主文掲記の実刑に処するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原田保孝 裁判官 松田俊哉 加島滋人)

〈以下省略〉

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